香港証券先物委員会(SFC)は、香港を仮想資産の世界的ハブとするための戦略的取り組みを示す「ASPIRe」ロードマップを発表した。これはアクセス(Access)、保護(Safeguards)、製品(Products)、インフラ(Infrastructure)、**関係性(Relationships)**の5つの柱を基盤に、包括的なエコシステム構築を目指すものだ。
新たなカストディアン制度やOTC取引の見直しにより、投資家保護と市場の健全性を強化し、個人投資家へのアクセスを段階的に拡大する方針も打ち出した。また、2025年末までに最終的なカストディライセンス制度を確立する予定である。
競争が激化する中、SFCは規制の柔軟性と技術進展への迅速な対応を重視し、シンガポールなど地域のライバルに対抗する姿勢を明確にしている。ロビンフッドのシンガポール進出計画など、地域間競争は今後さらに激化する見通しだ。
ASPIReロードマップの5つの柱が示す戦略的意図

SFCの「ASPIRe」ロードマップは、単なる仮想資産市場の成長促進にとどまらず、同分野における香港の国際的競争力を高める意図が明確である。特に注目すべきは、アクセス、保護、製品、インフラ、関係性という5つの柱が、それぞれ市場参加者の多様なニーズとリスク管理を包括的にカバーしている点だ。
アクセスではOTC取引とカストディアン向けの新ライセンス制度を導入し、プロの事業者に市場参入の明確なルールを提示することで信頼性を高める。保護に関しては、規制遵守を徹底することで投資家の信頼を確保し、市場の健全性を強化する。製品の拡充は、トークン上場やデリバティブを含む新商品の提供を通じて多様な投資機会を生み出す。
また、インフラ整備は監視体制のデジタル化を進め、迅速かつ正確な市場監視を実現。さらに、関係性の強化では、業界関係者との継続的な対話を通じて規制改善を図る。これにより、香港は安定した環境の中で革新が促進されるエコシステムを確立しようとしている。
カストディアン制度とOTC取引の改革がもたらす影響
SFCが打ち出した仮想資産カストディアン制度とOTC取引の見直しは、香港の仮想資産市場における安定性と透明性を一段と引き上げる可能性がある。カストディアン制度の導入は、資産管理における信頼性を向上させるだけでなく、不正防止や資産流出リスクを低減する重要な役割を果たす。
OTC取引に関しても、新たなルールとライセンス制度が整備されることで、従来の場外取引に見られた不透明さが解消される。SFCは2025年末までに第2回の意見募集を実施し、最終的な制度を確立する計画である。この段階的なアプローチにより、市場参加者は新規制に適応しやすくなり、より安全な取引環境が整うことになる。
一方で、規制強化は市場参入のハードルを上げる側面もある。特に小規模事業者や新興企業にとっては、コンプライアンス対応に伴うコスト増が課題となる可能性がある。しかし、信頼性の向上と市場の健全性確保を優先する香港の姿勢は、長期的な市場成長に寄与すると考えられる。
香港とシンガポール、仮想資産ハブ競争の行方
香港が仮想資産エコシステムの強化を進める中、アジア地域ではシンガポールが有力な競合として存在感を示している。シンガポールはデジタル資産サービスを地域全体に拡大する戦略を推進し、ロビンフッドなどの大手企業が同市への進出を計画していることからも、その競争力の高さがうかがえる。
特にロビンフッドは2025年後半までにシンガポールで仮想通貨サービスを開始する計画を発表し、アジア市場への影響力を強める姿勢を鮮明にしている。2024年6月にはBitstampを2億ドルで買収しており、これにより同社は欧州とアジアの両市場で存在感を高めることとなる。
一方、香港はASPIReロードマップを軸に、法的安定性と規制の柔軟性を強みとしながら競争に挑んでいる。Chainalysisのチェンイ・オン氏が指摘するように、最終的な競争の行方は法規制だけでなく、技術進展への迅速な対応や市場の受容度にも左右されるだろう。この競争が両市場のさらなる成熟を促すことは間違いない。
Source:Decrypt