ウォール街の大物投資家であり、ビットコイン支持者としても知られるハワード・ラトニック氏が、米上院公聴会においてテザーの信頼性を擁護しつつ、政府によるステーブルコインの監査義務化には前向きな姿勢を示した。
ラトニック氏の企業であるキャンター・フィッツジェラルドは、現在テザーの裏付け資産を管理しているが、法定通貨の保有状況については依然として不透明な部分が残る。この点について上院議員から指摘が相次ぐ中、彼は「ステーブルコインは100%米国債で裏付けられるべき」と強調した。
一方、テザーが犯罪組織に利用されているとの批判には、「アップルのiPhoneが犯罪に使われたとしても、アップルを責めるのはおかしい」と反論。今後、政府のAI技術活用による不正取引の監視強化を提案する場面もあった。
テザーの信頼性を巡る議論と監査義務化の動向
テザーの裏付け資産についての透明性は、長年にわたり議論の的となってきた。ラトニック氏が率いるキャンター・フィッツジェラルドはテザーの裏付け資産を管理しているが、どの程度の法定通貨が実際に保有されているのかについて、独立した機関による包括的な監査は行われていない。これに対し、金融規制当局や米議会の一部からは、ステーブルコイン全般に対する監査の義務化を求める声が高まっている。
ラトニック氏は、上院公聴会において「米ドル建てのステーブルコインは100%米国債で裏付けられるべきであり、監査を受ける必要がある」と発言し、政府の監査導入には一定の支持を示した。しかし、現時点でテザーがどのような資産によって担保されているのか、その詳細は公には明らかになっておらず、これが市場関係者の懸念材料となっている。
また、テザーの発行元であるテザー社は過去に何度も規制当局の調査対象となってきた。特に、米司法省やニューヨーク州司法当局による調査では、資産の実態が不透明であることが指摘され、2021年には1,850万ドルの罰金を支払うことで和解した経緯がある。テザーが引き続き業界最大のステーブルコインであり続けるためには、より高い透明性が求められるのは間違いない。
テザーと違法取引の関係性 ラトニック氏の反論
ステーブルコインの規模が拡大する中で、特にテザーは違法取引に利用される可能性が指摘されてきた。米国の政治家や規制当局の一部は、テザーが犯罪組織や制裁回避の手段として使用されていると主張しており、これがラトニック氏の商務長官指名にも影響を及ぼす可能性がある。
エリザベス・ウォーレン上院議員は、ラトニック氏がテザーと深い関係を持つことが「重大な判断力の欠如を示す」と批判している。これに対し、ラトニック氏は公聴会で「犯罪者がiPhoneを使用しているからといって、アップルが責められるべきではないのと同じだ」と反論。テザーが広く普及している以上、違法な目的で使用されることもあり得るが、それは米ドルなどの法定通貨にも共通する問題であると主張した。
さらに、ラトニック氏は今後の規制強化に関する提案も行った。政府がAI技術を活用し、ブロックチェーン上の取引をより正確に追跡することで、違法行為を防ぐ手段が強化されると述べ、犯罪利用の抑制には技術的な解決策が不可欠であると強調した。この発言は、従来の金融システムにおいても不正行為が発生している点を示唆し、ステーブルコインの規制が特定の企業のみを標的にするべきではないという主張の裏付けとなっている。
ステーブルコイン規制の未来と市場への影響
上院公聴会では、テザーの透明性や犯罪利用のリスクに加えて、今後のステーブルコイン規制の方向性についても議論が行われた。特に、米政府がデジタル資産に対する監視を強化する中で、ステーブルコインの準備金に関する厳格なルールが求められる可能性が高まっている。
現在、ステーブルコイン市場は急速に成長しており、テザーの時価総額は1,390億ドルに達している。これにより、金融市場全体における影響力が拡大しており、規制の方向性次第では、仮想通貨市場全体の流動性にも大きな変化が生じる可能性がある。特に、テザーが適切に担保されていなかった場合、その信頼性の低下は市場に大きな混乱をもたらすことが予想される。
ラトニック氏は「適切な規制と技術の活用が両立すれば、デジタル資産の未来はより安定したものとなる」と主張している。ステーブルコイン市場の規制が強化されることで、業界全体の信頼性が向上する一方、規制の方向性によっては既存の発行体にとって大きな負担となる可能性もある。公聴会での議論を踏まえ、今後の政策動向が市場にどのような影響を及ぼすのか、注視する必要がある。
Source:Decrypt