ステーブルコイン最大手のTetherが、Bitcoinのレイヤー2ソリューション「Lightning Network」上でのUSDT統合を発表した。この動きは、Bitcoinの決済手段としての利便性向上に寄与し、特に新興市場での採用拡大が期待される。

発表はエルサルバドルで開催された「Plan B」カンファレンスで行われ、Lightning LabsのTaproot Assetsプロトコルを活用することで実現する。USDTの市場規模は約20兆円に達し、年間取引額は決済大手Visaに迫る規模に成長。

この統合により、Lightning Networkを利用する加盟店はBitcoinとUSDTを同じインフラで扱えるようになり、AIエージェントや自動取引の分野にも影響を及ぼす可能性がある。エルサルバドルの金融環境とも密接に関わり、Bitcoinの普及に向けた新たなステップとなる。

Lightning Network上のUSDT導入が意味する決済の進化

Lightning NetworkはBitcoinのスケーラビリティを向上させるレイヤー2技術として注目されてきたが、今回のUSDT統合により、その活用範囲が大きく広がることになる。これまでBitcoinは主に価値の保存手段として利用されていたが、TetherのUSDTがLightning Network上で利用可能になることで、即時決済手段としての利便性が向上する。

特に、Lightning Networkの低コストかつ高速な決済処理能力は、送金手数料の削減とトランザクション速度の向上を実現し、従来の銀行送金やクレジットカード決済と競争できる可能性を持つ。これにより、USDTを利用する個人や企業にとって、より柔軟な決済手段が提供されることになる。

さらに、Bitcoinを採用する国や地域では、価格変動の影響を受けずに取引を行う手段としてUSDTが活用される可能性がある。エルサルバドルがBitcoinを法定通貨として導入した際、価格変動の大きさが課題となっていたが、Lightning Network上のUSDT統合により、その懸念が和らぐことが期待される。

この取り組みは、単なる決済手段の追加にとどまらず、Bitcoinネットワーク全体の実用性を高める可能性を秘めている。BitcoinとUSDTの相互運用性が高まることで、ブロックチェーン決済の主流化に向けた新たな展開が生まれるだろう。


USDT市場の拡大とTetherの戦略的動き

TetherのUSDTは現在、約20兆円規模の市場を誇り、他のステーブルコインを圧倒する存在感を示している。2024年には取引総額が10兆ドル(約1,450兆円)に達し、決済大手Visaの16兆ドル(約2,320兆円)に迫る勢いを見せている。この成長を支えているのが、Tetherの戦略的なブロックチェーン展開である。

USDTはEthereum、Tron、Solanaなど10以上のブロックチェーンで流通しており、異なるネットワーク間での相互運用性を高めてきた。今回のLightning Network統合は、Bitcoinネットワークへの進出を意味し、Tetherの影響力をさらに拡大する動きといえる。

これまでLightning NetworkはBitcoinのスケーラビリティ向上に貢献してきたが、USDTが加わることで、取引の選択肢が広がり、ネットワークの利用価値が向上することが予想される。また、Tetherにとっても、Bitcoinネットワーク上での利用が増えることで、新たなユーザー層の獲得や市場拡大につながる。

この背景には、Tetherが新興市場や金融インフラが未成熟な地域での需要を取り込む戦略があると考えられる。Bitcoinは法定通貨に不安定要素を抱える国々で代替手段として利用されるケースが増えているが、その価格変動が課題だった。USDTをLightning Network上で利用できるようになれば、安定した価値の送受信が可能になり、新興市場での普及が加速するかもしれない。


エルサルバドルのBitcoin戦略とLightning Networkの新たな展開

エルサルバドルは世界で唯一、Bitcoinを法定通貨として採用した国だが、その普及には課題が残っている。政府が導入した「Chivo Wallet」はLightning Networkを活用しているものの、国民の利用は当初の期待を下回っている。今回のTetherのUSDT統合は、こうした課題の解決につながる可能性がある。

エルサルバドルでは、Bitcoinの価格変動が大きいため、日常的な決済手段としての利用が進んでいない。特に、安定した価値を求める事業者や労働者にとっては、価格が急変するBitcoinよりもステーブルコインの方が適している。Lightning Network上のUSDTが普及すれば、Bitcoinのインフラを活用しつつ、安定した決済手段を提供できるようになる。

さらに、国際通貨基金(IMF)との融資契約の影響で、エルサルバドルではBitcoin決済の受け入れ義務が緩和され、加盟店が任意で選択できるようになった。これにより、USDTのようなステーブルコインを決済手段として受け入れる店舗が増える可能性もある。BitcoinとUSDTが共存する環境が整えば、エルサルバドルのデジタル決済エコシステムはより柔軟なものとなるだろう。

また、Lightning Networkの発展は、AIエージェントや自動取引システムとの連携にもつながると考えられている。Lightning Labsは、この技術が将来的に自動運転車やIoTデバイス間のマイクロペイメントにも応用される可能性を指摘しており、USDTの導入がこうした分野の発展を加速させることも考えられる。

エルサルバドルにおけるBitcoinの導入は、世界的に注目される実験ともいえる。その中で、Lightning NetworkとUSDTの統合は、より実用的なデジタル決済の在り方を示すものとして、他国にも影響を与えるかもしれない。

Source:Cointelegraph