ドナルド・トランプ米大統領は、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に対し新たな関税を課すと発表した。この決定を受け、ビットコインの価格は10万ドルを下回り、一時約9万1,441ドルまで下落した。
一方、金価格は上昇傾向を示し、1オンスあたり2,483ドルの新高値を記録した。専門家は、投資家が伝統的な安全資産である金に資金を移し、ビットコインと金の相関性が低下していると指摘している。トランプ政権の貿易政策が市場に不確実性をもたらし、リスク資産からの資金流出を促進している可能性がある。
ビットコインと金の相関性が崩れた背景と市場の変化

トランプ大統領の関税措置が発表された直後、ビットコインの価格は下落し、金の価格は最高値を更新した。この動きは、過去の市場トレンドとは異なるものだった。通常、ビットコインは「デジタルゴールド」として金と似た動きを示すことが多かったが、今回はその相関が崩れている。データ提供会社Kaikoによれば、ビットコインと金の90日間の相関関係はほぼゼロの状態が続いており、これまでの市場の動向とは異なる状況にある。
この背景には、トランプ政権の関税措置による市場の動揺がある。特に中国に対する関税が再導入されたことで、投資家はリスク回避のために金へと資金を移動させた。一方で、ビットコインは依然としてリスク資産と見なされており、市場のボラティリティに左右される傾向が強い。暗号資産データ会社Amberdataのグレッグ・マガディーニ氏は、「金は確立された安全資産だが、ビットコインはまだ市場の成熟過程にあり、特に政治的な不確実性が増す時期にはリスク資産としての側面が強まる」と述べている。
また、FRB(米連邦準備制度)が金利政策に関する新たな指針を示す可能性があり、それが金とビットコインの動向に影響を与えるとみられる。歴史的に、金はインフレ懸念が高まる局面で価値を増す傾向があるが、ビットコインはそれとは異なり、規制の影響を大きく受ける資産である。そのため、現在の市場では、金が安全資産としての地位を固め、ビットコインがよりハイリスクな資産として扱われる構図が鮮明になっている。
トランプ政権の関税戦略が暗号資産市場に与える影響
トランプ大統領の関税政策は、単なる貿易措置にとどまらず、グローバルな金融市場に影響を与える可能性がある。今回の措置により、特に中国をはじめとする貿易相手国との関係が悪化し、経済不確実性が高まっている。これが仮想通貨市場にも波及し、ビットコインの価格変動を引き起こしている。
具体的には、米国と中国の貿易摩擦が激化する中で、中国国内の投資家がリスク回避のために資産を移動させている。これまで、資本規制の厳しい中国ではビットコインが安全資産としての役割を果たす場面があった。しかし、今回の市場では、金や米国債などの伝統的な安全資産の需要が急増しており、ビットコインは売られる側に回っている。Kaikoのデータによると、関税発表後、アジア時間帯におけるビットコインの売却量が急増しており、特に中国系の取引所での取引が活発になった。
また、トランプ大統領がカナダおよびメキシコとの交渉を進める中で、仮想通貨市場は依然として不安定な状態にある。関税が一時停止されたことでビットコイン価格は回復したものの、市場のセンチメントは依然として不安定だ。暗号資産市場はグローバルな要因に敏感であり、特に米国の政策変更が大きく影響を与える。米国の金融政策や規制動向次第では、今後もビットコインのボラティリティが続く可能性がある。
ビットコインの長期的展望と機関投資家の戦略
スタンダード・チャータード銀行は、ビットコインの価格が今後数年で50万ドルに達する可能性があると予測している。しかし、短期的には市場のボラティリティが高まり、不確実性が続くと考えられている。このような見通しのもと、機関投資家はビットコインをどのように位置付けているのかが注目される。
現在、多くの機関投資家はビットコインをポートフォリオの一部として取り入れつつあるが、それを「安全資産」として扱うかどうかは意見が分かれている。例えば、ブラックロックやフィデリティといった大手金融機関は、ビットコインETFの提供を進めており、機関投資家の参入を促している。一方で、ウォール街の一部のアナリストは、ビットコインの高いボラティリティを理由に慎重な姿勢を崩していない。
また、ビットコインの価値を支える要素として、規制環境の変化も無視できない。米国証券取引委員会(SEC)や金融当局がビットコイン関連の規制を明確化することで、市場が安定する可能性がある。しかし、トランプ政権の政策は規制の方向性を不透明にしており、特に関税や金融政策の影響を受けやすい市場では慎重な対応が求められる。
このように、ビットコインは短期的には市場の混乱によって価格が大きく変動する可能性があるが、長期的な視点では依然として高い成長余地を持つ資産とみなされている。ただし、金のように「安全資産」としての地位を確立するには、まだ時間がかかると考えられている。
Source:Decrypt