ビットワイズ・アセット・マネジメントのアルファ戦略責任者、ジェフ・パーク氏は、金市場の現状がビットコインへの資金移動を促進する可能性を指摘している。特に、イングランド銀行が金の引き渡し期間を従来の数日から4〜8週間に延長したことが問題視されており、金の信頼性に疑問が生じている。パーク氏は、過去の金属市場における詐欺事件や物流問題を挙げ、物理的資産のリスクを強調。

一方、ビットコインは物流上の制約がなく、最も堅固な資産として注目されている。しかし、ビットコインも規制やETF構造に関する課題を抱えており、投資家は慎重な判断が求められる。

イングランド銀行の金引き渡し遅延が示す市場の変調

イングランド銀行が保有する金の引き渡し期間が従来の数日から4〜8週間へと延長されたことは、市場に大きな影響を及ぼしている。金の物理的な受け渡しにかかる時間がこれほどまでに長期化する事態は異例であり、その背景にはいくつかの要因があると考えられる。

第一に、世界的な金の需給バランスの変化が挙げられる。特に、米国のコメックス商品取引所における金の在庫は昨年11月の米国選挙後に急増し、533メトリックトンから926メトリックトンへと約75%も増加している。この動きは、機関投資家を含む市場参加者が金の安全性を求める一方で、流動性確保のためにロンドンからニューヨークへの金の移動を加速させた結果といえる。

さらに、物流面での問題も影響を及ぼしている。金の輸送は単なる貨物輸送ではなく、厳格な監視と保険、特定の保管場所の確保が必要となる。特に大西洋を超えた金の移動量が増えたことで、ロンドンからの出庫プロセスにボトルネックが生じた可能性がある。こうした遅延は、機関投資家やヘッジファンドにとって取引戦略の見直しを迫る要因になり得る。

これらの要素が重なり、金の現物市場は予想以上に不安定な状態にある。市場関係者は、こうした引き渡し遅延を「一時的な需給の歪み」と見る向きもあるが、一方で、金の信頼性に関する根本的な疑問を生む契機になりかねない。

過去の金属市場詐欺事件と物理資産のリスク

金市場の信頼性が問われる中、過去の金属取引における詐欺事件が改めて注目を集めている。ビットワイズのジェフ・パーク氏は、中国の「青島金属詐欺事件」やロンドン金属取引所(LME)における「ニッケル詐欺事件」を例に挙げ、物理的なコモディティ市場が抱えるリスクを指摘した。

青島金属詐欺事件では、貿易業者が銅・アルミ・ニッケルなどの在庫を何度も担保として使用し、実際にはその大部分が存在しなかったことが発覚した。この事件は、中国国内だけでなく国際的な金属市場にも波紋を広げ、コモディティ取引の透明性が厳しく問われるきっかけとなった。

また、ロンドン金属取引所では、登録されたニッケル在庫の袋の中身が石ころだったという衝撃的な事件が発生している。これは取引所にとって初めての詐欺ではなく、過去にも同様の問題が繰り返されてきた。こうした事例は、物理的な資産が必ずしもその価値を保証するものではないという現実を浮き彫りにしている。

さらに、世界的なコモディティ企業トラフィギュラがモンゴルで5億ドル相当の燃料不足を発見した事件も記憶に新しい。この問題は、物理資産における管理の難しさを象徴しており、書類上の取引と実際の在庫との間に大きな乖離があることを示している。

これらの事例が示すように、物理資産はその性質上、詐欺や管理の不備に晒されるリスクを常に抱えている。特に、保管や輸送が必要な資産の場合、信頼性が揺らぐことで市場全体に波及する影響が大きくなる。

ビットコインが提示する新たな資産のあり方

金市場の混乱を背景に、デジタル資産であるビットコインの価値が再評価されつつある。パーク氏は、ビットコインが「地球上で最も堅固な資産」となる可能性を指摘し、物流コストがほぼゼロであることを強調している。

ビットコインは、物理的な輸送や保管の必要がなく、デジタルでの即時取引が可能である。これにより、金のように引き渡し期間の遅延や物流のボトルネックに悩まされることがない。また、分散型台帳技術によって取引が透明化されており、金属市場に見られるような不正リスクを最小限に抑えることができる。

ただし、ビットコインが新たな資産クラスとして確立されるには、解決すべき課題もある。規制の枠組みが未整備な点や、ETF(上場投資信託)における現物保有の問題がその代表例である。パーク氏は、現在の規制がビットコインを証券の視点で捉えていることを問題視し、コモディティとして扱うことが理にかなっていると指摘する。

このように、金市場の混乱を機にデジタル資産への関心が高まる中で、ビットコインが伝統的な資産クラスに取って代わる可能性が議論されている。とはいえ、物理資産とデジタル資産の双方には長所と短所があり、市場参加者にとっては慎重な判断が求められる状況が続いている。

Source:Bitcoinist.com